第二話:君は本当のハゲの気持ちを知っているか?

アイキャッチ

第二話:君は本当のハゲの気持ちを知っているか?

・歪み

いつからだろうか。自分が特別だという事に気付いたのは。

いつからだろうか。人と話す事が異常に疲れるようになったのは。

いつからだろうか。目立たないように自制するようになったのは。

先生の熱心な弁舌がふるわれる中、僕は一人懐古の渦に飲み込まれて行く。

ーー

僕は中学生になり大人しくなった。内向的で保守的になってしまったと感じている。何故ならある日を境に僕はズレた存在になってしまったからだ。

そう、小学5年生くらいだったな。僕は家庭におけるストレスのあまり脱毛症を患ってしまった。頭髪は全体の3分の1ほどなくなってしまい、程度は軽くなったものの僕はそれからずっと多発生円形脱毛症だ。

ある日起きると枕元が髪の毛だらけなんだ。ゾッとする光景だよ。一日限りかと思いきやその光景は何日か続いた。僕の自慢の髪は跡形もなく消え去り、見窄らしい落ち武者にジョブチェンジしてしまった。僕の好きなゲーム内のようにダーマ神殿で転職のお願いはしていないはずなのに。。。現実世界では神殿に行く必要などないようである。

僕は女の子に間違えられることがあるくらい髪が長かったし、癖で髪の毛をクルクル丸めるのが好きだったからとてもショックを受けた。でも不便なのはそれくらい。手が物淋しさを感じたくらいだ。周りの友達は相も変わらない態度で接してくるし僕も重大な事だと全然気付いていなかった。

しかし現実は、社会は僕を放っておかない。しばらくすると生活に2つのイベントが加わった。放課後に一人特別な授業を受ける事になったのと、精神科に通う事になった事だ。

この頃からだろう。僕は人と何かが違うという事を感じ始めたのは。
何かが歪んでいく。全くわからない何かが何かを変えてしまった。このときの僕は何かが変わってしまったらしいと笑い飛ばせる子供だった。純粋な無知で蒙昧な子供だ。

歪んだバットは取り替えなければならない。歪んだ部分で打つと真っすぐに玉をはじき返すことができなくなるからだ。では取り替えなければどうなるのか。実に簡単で真っすぐにはじき返す事が難しくなる。ここまで言えばわかるかな。この歪みは僕の想像以上に多大な影響を与える事になった。

・変わるもの、変わらないもの

僕は白衣を着た女性と病院の一室で真剣に向き合っていた。

さっきは絵を描かされて今度は謎の遊具で戯れている。なんだこの状況は。

心の中で独り言ちながら僕は必死にブタに息を吹かせシャトルらしきものを相手のコートへ追いやる。必死にブタミントンをしている。心の声とは裏腹に顔は笑っている。そう僕はひねくれ小僧なのである。

 

僕は精神科への通院を始めた。

あの父親が病院に通わせるなんて相当な出来事だぞ。

父の心の内は伺いしれないが状況が異常事態であることを教えてくれる。僕らは余程の状態でない限り病院には連れて行かれることはない。経験則ではお金も手間もかかる通院は父が病院にいかねばどうしようもないと判断した時だけ起きるイベントだ。ただの高熱くらいじゃびくともしないが、弟がひどい喘息で苦しそうな時は通院させていた。ちなみに僕も弟も喘息持ち。弟は喘息が酷くて入院することもあるくらいだ。話はそれたが、これは大変な事であるかもしれないと薄々感じ始めていた。

ほとんど同タイミングで始まった放課後の時間も摩訶不思議な時間でどっかからやってきた保母さんみたいな人と遊ぶだけであった。しかし、こちらは精神科の通院と違ってスペシャルだった。僕らが授業以外では触れることのできないパソコンなるものを自由に使わせてくれるのである。近所の家でパソコンを見たのは一回しかない。それくらいレアものなのだ。

ペイントで落書きをし、ソリティアとマインスイーパに興じる。検索をすればそれに付随する情報が画面上に表示される。小僧である僕にもわかる。これはスゴいものだと。

だが凄さはわかっても使いこなせない僕はわりかしすぐに飽きた。そんな時は探検をする。飽きればまた違う事をする。先生はそんな奔放な僕に付き添って遊んでくれた。間違いなく毎回スペシャルな気持ちになれた。楽しいひと時だ。

しばらくは謎の遊びをする通院とスペシャルな特別授業を受けていたが、先生との特別授業は唐突に終わりを告げた。突然来週で最後と通告をされ、最後の時間には手紙を渡され先生は去った。途方もない寂しさがこみ上げてきて僕は泣いた。二度と会えない悲しさと向き合うのはとてもしんどかった。思ってた何倍も僕はこの時間が好きだったようだ。

そんな劇的な別れを迎える頃、僕は気付いていた。精神科に向かう僕を見る人の目が昔と違う事に。哀れみの目や、すれ違い様のヒソヒソ話は全部感知していた。後は芋づる式に気付いていった。これは精神科にいるときだけじゃない、どこに出かけても僕は大層な注目を集めている。視線や話し方に気をつければ馬鹿でも気付く。多くの人が僕に気を使っているという事に。変わらないのは僕を昔から知っている人たちだけだ。

なんなんだこの状況は!

怒りがこみ上げる。僕が何をしたわけでもないのに取り巻く環境だけが変わって行く。望ましい変化ではないのは言うまでもない。もしかして前世で悪い事してしまったのかもしれない。そんな冗談が浮かぶくらいには高ぶった感情が落ち着いてきた時にふと思う。

中学校に入学してしまったらどうなる?

ほとんどが僕を知らない人ばかりだ。感情は一気に急降下し考えるだけで身が凍りそうになる。誰もが皆僕に哀れみを持つのではないか?のけ者にされてしまうのではないか?

そのとてつもない恐怖は少しずつ僕を変えていった。

少しずつ人と心を通わせる事が苦手になっていった。人との交流に恐れを感じるようになった。人の考えや行動に過敏になっていった。

 

変わっていくものもあれば、変わらないものもある。

僕は結構なマザコンであり、恐がりである。祖母と一緒に風呂に入り、同じ布団でないと寝られない時期があったくらいだ。弟はその頃から一人で寝ている。なんと勇ある者であろうか。僕は未だにお化けが恐くてトイレに行く事すら我慢しているというのに。

髪が抜け落ちてから祖母はお風呂後の頭皮マッサージをしてくれるようになった。この時間になると身構えてしまう。多分に真剣なんだろう。祖母は必死に10本の指を駆使し指先で僕の頭を子気味よく押したりもんだりしてくる。流麗ではない苛烈である。

正直に言おう。普通に痛い。

そして毎日言う。髪に良いからわかめを食えと。耳にたこができるほど聞いた。最早念仏の領域だ。うんざりする。毎日食べてるのに相変わらずな状況であるのに全くこの婆は何を言っているんだと思う事もある。

頭にも耳にも痛い時間だ。だが心の中では僕はこの時間を好きだった。変わらない関係性を感じられた。この時僕はただの子供でいられた。ひどく安心できた。痛くても五月蝿くてもされるがままなのは居心地がよかったからだ。

 

友人や家族とは変わらぬ関係性を持ち続けられる。自分に大きな変化があったとしても変わらない態度で接してくる人たちがいる。この事実は荒み続ける僕の心を力強く支えてくれた。

ーー

キーンコーンカーンコーン

終業の鐘の音で頭の中に流れていた風景が途切れる。途端に周りがざわつきだす。

僕はあれから少し軟弱になったと思う。代わりに心のバリケードが強固になった。中学入学を機に心のバリケードは非常に強固になり、僕という人間を覆い隠すようにできた心の壁は誰にも取り除けなくなった。今では僕でさえ中身を覗くことができない。

【第三話へ続く】

あとがき

お疲れさまです。

ロマンチストサラリーマンのミニ時代(以降ミニサラ)の二大天敵がついに現れましたね。多発生円形脱毛症と父です。笑

こいつらが大層強敵で、頼んでもないのに様々な関門をどんどん用意してきたんですね。基本的に僕の青少年期は彼らとの戦いに終始したといっては過言ではないです。おかげでドタバタな人生を歩めたとは思いますが。。。今となっては良き強敵だったと思います。

第二話の考えたいテーマは「マイノリティへの対応」です。

ここでのマイノリティは少数派や差別や不公平な扱いを受けている人の事を指しています。
私は脱毛症を患った時、人と目が合う事も怖かったですし、誰かが自分の事を話しているだけで悪口であると捉えてしまったし、純粋な好意による行動であっても放っといて欲しいと思った事があるんですね。平等に扱って欲しいときもあれば特別に扱って欲しいときもある。非常にセンシティブな存在だったと思います。

今でもどう対応していくのが最善なのか未だに全くわからないです。恐らく最善なんて個人によって違うので正解なんてないとは思いますが。。。

ですが無関心にはならず、見かける度にどういう対応をするのがお互いにとっていいのかを考えてくれると嬉しいです。いつか機会が訪れた時考えていた行動をとれるような方が増えてくれると嬉しいです。一緒に考えていければと思ってます。

誰かの一助になれば幸いです。
2017/7/17 ロマンチストサラリーマン

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です