第六話:社会復帰と存在意義

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誰かのために生きてこそ、人生には価値がある
ーアルベルト・アインシュタインー

第六話:社会復帰と存在意義

もしあのとき違う選択をしたら俺はどのような人生を送っていたのだろうか。

登校を始めたおかげで再び見慣れた校舎が見えるとふと頭をよぎる。だが、すぐに違う感情で埋め尽くされる。

帰って来れて良かった。

そんな安堵と充足が入り交じった感情が湧いてきて、俺は勇み足でクラスへ向かう。

ーー

・生存責任

永遠に続くかのような自堕落で非生産的で夢のような時間は突然壊された。

最近の日常であるゲームの世界につかり込んでいると、ある日突然父の姉が家に乗り込んで来たのである。

父の兄弟は人数が多く把握しているのはかつて一緒に暮らしていた父の妹と今回襲撃してきた父の姉である。他にも数名いるらしいが親戚の把握はとうに諦めている。全くもってどうでも良い事だがこの3人は全員バツイチ子持ちで我が一族は多分どこか大いなる問題を抱えているに違いない。

父の妹(通称;さっちゃん)はおおらかな性格だが、父の姉(通称:おばちゃん)はとても厳格な人だ。生活態度や金銭の使い道に人一倍厳しいが一族の中で道理や教育、常識は彼女が担保しシェアをしてくれる。生活の中で重大な議論がおこる時に必ず顔を出し道理を説いてくれるありがたい人だ。だが一度口を開けば出るあまりにも苛烈な物言いに俺はいつも般若の面影を感じていた。

そんな人がついに、真っ昼間に乗り込んで来た。

声が聞こえた瞬間に俺は理解した。
今日は間違いなく『俺について』で乗り込んで来ている!

雷を怖がる少年のようにフルフルと布団の中で丸まっていたが、あれよあれよと面前に引っ立てられてしまった。

普通なら悔しそうに「くっ、殺せ」や「謀反でござる」などの一芝居をうつ所だがそれどころではない。まさしく蛇に睨まれた蛙なのである。正確には般若に引っ立てられた引きこもりなのだが。

真摯に対応せねばならない。彼女は我が家でそれなりの決定権を持つ裁判官なのだ。彼女の裁定が覆ることはほとんどない。

「あんたどうする気なの?」

のっけから怖い。

「あんた誰の金で食わしてもらってんの?みんな大変な思いしてなんとか食べていってんの。うちの家には食べて寝てるだけの人間を養ってく金はないの。今までここで生きてきてわかってるでしょ。

生きるのに食べ物が必要。でも食べるのにはお金がかかる。家にはお金がないからこのままじゃいられない。そして食べさせてもらってきたあんたは今まで食べて来た分ちゃんと生きる責任がある。」

「はい。ごめんなさい。」

「高校は出なさい。私たちは高校も出られなかったけど、それを後悔している。だから今の高校に行くか、通信制に転校するか。」

見たくないが気付いていた真実であった。うちにはお金がない。のうのうと食って寝て生きてる場合ではない。ばあちゃんは日銭を稼ぐために近所の御手伝いをしている。畑を耕して野菜を栽培している、俺がこのままでいることはできない。

だが、復学は無理だ。どの面下げて行けばいいのかわからない。今から何を頑張ればいいんだ。何のために生きていけばいいんだ。もう何も頑張れない。頑張る理由がない。俺はこのままくそ人間に成り下がる。

「通信制にいきます」

「そう。なら高校辞めるために挨拶行くわよ」

 

あっという間に俺の進路は決まった。明日挨拶に行くとのことでおばちゃんは一旦帰ったが、俺はもうやけになっていた。なるようになれ。生きる上での無力感は劣等感は全く消えてない。この世界は俺がいなくとも回るし、生きてるだけで馬鹿にされるには嫌だ。だが、今のままでいいとは思えなかった。これ以上迷惑はかけたくなかった。

あとはなすがままだ。

・生きる理由

翌日俺はおばちゃんと高校に来ていた。

初めて来る応接間はちょっと高価な椅子があって落ち着かなかった。

形式的な挨拶を経て、おばちゃんが辞める旨を伝えていく。俺はずっと下を向いていた。

一段落すると担任が聞いてきた。

「○○はどうしたい?」

考えても答えはわからなかった。

 

 

「高校に残りたいです」

俺は泣いていた。何にもわからなかった。ただ自然と口から出た言葉だった。

 

「そうか。じゃあそうしようか。」

「はい」

わからない。
ただ担任の気遣う気持ちや、校舎にある思い出が自然と思い出されて苦しくなっていた。ここを離れるのは本当に寂しい。

後から後から、友達や先生との会話や部活の思い出が湧いてきて、暫くは下をずっと向いていた。大人はみんな空気を読んで黙っていてくれた。

一通り出し切るとやけにスッキリした。久しぶりに感情が強く動いた気がする。

「昨日から実は定期試験なんだ。早速受けてくれ」

 

おばちゃんは帰り際に、「あんた残りたかったの?」と聞いて来たので、俺もさっき突然思ったといったら、「そう。なら頑張りなさいよ」といって帰っていった。ショック療法ではあったが、導いてくれたおばちゃんには頭があがらない。頑張らねば。

教室は覚えている。だが不安だ。どんな顔して入ればいいんだろうか。
そんな事を考えながら教室に向かう。

「あっ、○○君じゃん、大丈夫だった?髪めっちゃ伸びたね」

いざ、勇気を持って足を踏み入れると一番最初に声をかけてきたのは、俺の中でクラスで1、2を争うくらい可愛いと思っている須野さんが声をかけてきた。

天使

状況も相まってそんなアホみたいな感想を持ちながら会話をする。復学早々のデレデレ顔。早速の浮かれポンチである。

すぐに仲良しグループの奴らが目に入った。

「おい!何さぼってんだよ!」
「元気してた?」

軽い。マジで須野さんのように清らかな心で心配してくれよ。
こいつら絶対心配してなかっただろ。

だが、ありがてえ。
何も変わってない。
そんな確信が持てた。

そして始まるテスト。
勿論わからなすぎて笑っちゃうくらいできなかった。

休憩の度に「できた?」とニヤけながら聞いてくる輩がいるので「めっちゃできたわ」と毎度返していた。実際国語だけは手応えはあった。

初日はあっという間に過ぎた。
そしてテストが終わる頃にはかつての日常を取り戻していた。

心配は杞憂であった。知り合いや友達から心配されるのはむず痒かったけど、それ以上に皆が自分のことを心配してくれていたのが嬉しかった。全く会わなかった期間があっても人との縁は全然切れてないと感じられた事は『人との交流』に対して高い期待値を持つ契機となった。

余談だが、この頃の俺は本当に惚れやすい人間であった。昔から惚れやすい人間であると思っていたがこの時期は病的であった。天使に一瞬で惚れ、目が良く合う女子にも惚れ、毎日挨拶してくれる女子にも惚れた。「おはよう」と言われただけで正直こいつ俺の事好きなんじゃないかと本気で思ったことがある。黒歴史である。

話はそれたが、復学をした話をばあちゃんが近所の人にしたらしく近所の方からも、すごく生暖かい目で見ていただけるようになった。

不登校を通して思った事がある。
自分がいなくても世界は回るは本当の事だ。だが人は想像以上に暖かい。どんなことがあっても関わった以上その人を忘れることはできないんだなと思った。一度関わりを持った人に対して完全に『無関心』になることはあり得ない。そう思っている。それは生きる事を凄く楽にしてくれる実感だった。

復学してからずっと生きる意味を探していた。生きていく支えが欲しかった。
自分の事だけを考えて何かを頑張る事は自分の原動力に成り得なかった。自分を幸せにするために苦しい思いをして生きる事は馬鹿らしかった。それなら生きている苦しみの方が断然勝る。生きる責任だけが俺を縛りつけていた。生きる事は義務のように感じられた。

ただこの頃から、支えられた分支えたいと思うようになった。自分という人間を通して誰かが幸せになればいいと思えた。そのための苦しみなら意味のある苦しみに思えた。だからそれを心の支えにしようと思った。

関わった人たちを幸せにする事。恩を返すように生きる事。それが俺の望みになった。そのためなら生きたいと思えた。

ほんの些細なきっかけで始まった不登校は自分や社会と深く向き合う機会となってくれたと思う。そうやって意味づけして進んでいく。

ーー

バイトも部活も再開しないとな。

せっかくだから新しいバイト先で始めよう。

そんな事を思いながら、今日も帰宅するのである。

【第七話へ続く】

※登場人物は本人特定できないよう偽名を使ってます

あとがき

お疲れさまでした。

無事社会に帰ってこれましたね。
今回は強烈に記憶に焼き付いているお話でした。

伯母さん本当に怖かった。笑
不登校が快適だった分尚更衝撃的でした。

無事復学できた時は、多くの人に支えられて生きているなあとしみじみ思ってしまったり。

私の場合は強制的に環境を変える事が吉と出ましたが一般化はできないと思ってます。

基本的に不登校になる①原因を取り除く②事象からの受け取り方を変えるが対策としてはスタンダードだとは思います。
私の場合は実はどちらも成功しましてですね。実は復学時には一時的に円形脱毛症は治ってました。その時にストレス具合と症状の程度は深い関係があるという事に気付きました。

それは置いといて、①はできてたんですね。なので後は②です。これが強制的な復学が考え方に大きな変化が生まれる契機になったので②もできたと。

①が一時的なものだったので②が起きてなかったら、再度不登校になってたかもなとは思ってます。

今回のテーマはメッセージです。
「縁・関係性」です。

縁って切れないと思ってます。

本当に細さ太さはありますが繋がり続けます。

だから、誰もが孤独感を感じる必要はないです。いつだって自分から動けばどうにでもなります。

関係性としては『同期』『知り合い』『恋人』等様々あります。一つの関係性が終わってしまっても、ずっと縁は繋がり続けます。

ある関係性が終わっても、時を経て違う関係性で繋がる事は往々にしてあります。だから関係性を変える事を恐れないで大丈夫です。

関係性は変えることができます。

シンプルにいうと、
縁は切れないので孤独感を感じる必要はありません。寂しい時は縁を太くするよう働きかけてください。
縁が切れないので、繋がる時に生まれる関係性は変える事ができるものです。嫌な関係性なら一度切って新しく作りましょう。嫌な関係性を切る事はお別れではなく、お互い気持ちがいい関係性を作る過程と考えましょう。

人間関係で苦しむ人が多いので、ヒントになれば嬉しいです。

誰かの一助になれば幸いです
2017/8/18 ロマンチストサラリーマン

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