第五話:不登校×ゲーム=彼女

アイキャッチ

禍福は糾える縄のごとし

幸福と不幸は表裏一体でかわるがわるくるものだということのたとえ

第五話:不登校×ゲーム=彼女

・崩落

世界は自分がいなくても回り続ける。自分は存在していようがいまいがどちらでも良いという事なんだろうな。

そんな事を考えながら毎日を過ごす。起きてご飯を食べて、後は寝るまでずーっと携帯とにらめっこしている。家族がご飯を食べていようが僕には関係ない。親父も弟も俺には干渉してこない。ばあちゃんだけはご飯のことや風呂の事で話かけてくることがあるくらいだ。一緒に住んでいた叔母とその子供たちは高校を卒業すると実家を出て行った。

俺は布団にくるまり自分の世界の中で過ごす。生きている気はしなかった。ただずっと心の中には寂しさと虚しさと怒りが消えないで燻っている。何故自分だけがこんなめに遭わねばならないのか、一度たりとも納得できたことはなかった。同じめにあっている人がいないから誰にも理解できるはずがないと思いながらも、ずっと理解して欲しかった。

そんな気持ちを理解して救い上げてくれる人なんて現実にはなかなか現れはしない。だから現実を忘れられるように携帯の中の創りものの世界に埋没していく。

ーー

俺は部屋に引きこもり不登校となっていた。

順風満帆に見えた高校生活は、ある日突然終わりを迎えた。

きっかけはほんの些細な事であった。

たまたま中学からの友人とその部活仲間が歩いているところに通りかかった時である。「ハゲ」というワードが聞こえてきて俺は心臓に冷や汗をかいた。このワードが俺を指していた事はあっても友誼を深めたものが冗談混じりで使うくらいであって、俺と関わりのない人が俺を指して使った事はなかった。とは思いつつ聞こえるだけで自分なのではないかといつもドキドキしていたりする。

ちょっと気になり耳をそばだててしまった。臆病者の性である。だけど本当に後悔をした。話されていたのは俺の事だった。それを当然の事であるかのように受け流す中学からの友人も信じられなかった。その呼び名で俺を呼ぶのを止める存在であって欲しかった。

隠し通せるとは思っていなかった。でも、そんな呼ばれ方はあんまりだ。俺だって好きでなった訳ではないのに。

でも本当はみんな心の中では俺の事ハゲ呼ばわりしてんのかもな。

急に人の心を信じられなくなった。表の態度と裏の態度は違うのかもしれない。誰も彼もが俺をハゲと認識して馬鹿にしているかもしれない。そんな恐怖が後から後から湧いてくる。人の悪意に触れないように多くの人と親交を持った。でも高校にもなると人が多すぎる。親交のない人が身体的特徴を持つ俺を「ハゲ」と認識し呼ぶのは仕方がない。仕方ないとはわかっている。

でもそれ以上にもうどうしようもないことで傷つきたくなかった。

俺は世間に立ち向かう勇気をなくして引きこもってしまった。最初はばあちゃんが学校に行けと五月蝿かったが、「俺の何がわかるんだ?ハゲてないお前にわかるはずがない」と怒鳴り散らすとそれ以降何も言わなくなった。

俺はどこまでも落ちていく。それを止める人や物はもう何もなかった。
人生にも他人にも何も期待できなくなっていた。

・モテ期

厭世的な気持ちが過ぎ去り、携帯の画面を一度見出すと俺は現実世界を全て忘れキャラが変わったかのように活発的になっていた。

ーー

世の人間は不登校やニートなどの引きこもりはやることがなくてダラケていると思うだろう。だがはっきりと言わせていただく。断じて違うと。引きこもりの一日は非常にストイックなのだ。

起きてから寝るまで、食事、トイレ、風呂以外はほとんどゲームにつぎ込む。たまにネット小説を読むがメインの活動には支障をきたすことはない。徹底された自己管理が求められる。

こんな具合で熱くなれる俺は『エターナルゾーン(通称:エタゾ)』を『タクティクスアイランド(通称:TI)』という携帯ゲームに心血を注いでいる。

エタゾは月額課金型のオンラインRPGで、レベルシステムを導入していて時間を投下すればするほどレベルが上がる廃人製造機だ。周りのフレンドが学校や会社で断続的にしかプレイできないのに対し、俺は睡眠すら削って時間をつぎ込む事ができる。結果は言わずともわかるでしょう。フレンドがログインした時に俺に対して感じる圧倒的攻略速度、圧倒的ステータス差、圧倒的知識格差。俺はチヤホヤされ、ゲームの世界で連れ回された。強かな人たちにのせられている気もするが自尊心が満たされた。

そしてTI。こちらは無料の戦略コミュニケーション型RPGと称していたが、ちょっとルールを変えた将棋やチェスみたいなものだ。レベルよりは駒をどう使うかが肝要なゲームだった。一人一人がプレイヤーなので王はなく、それぞれが自由に動いて、時に協力して敵を倒していくゲームである。

一日に一回しか行動できないのがミソで、プレイヤーは一日一回ログインして動かすだけなのでそんな負担にはならないが、誰がどこに移動して何をするかの順番を決め、それらを一日内に各自と連絡を取り実行させる『参謀』役は途方もなく時間を使う。最大25名を指示するが、各自の生活リズム、対応速度、性格等それらをチャットしながら掴んで順番に指揮していく。指示が上手くはまり勝利に導けた時の達成感、周りからの賞賛、戦績が乗るので見栄えがよくなっていくステータスプレートは最高の高揚を俺にもたらした。

それらも良かったが、ゲーム内のチャットも凄く良かった。
ゲームの世界ではゲーム性自体も魅力的だがチャットの面白さも一入だ。実際の自分の容姿や、能力を度外視して作られる世界なので心がむき出しになるのだろうか、凄くみんな本心がだだ漏れだった。すぐ馬鹿にする人、すぐ文句をいう人、死ねしか言わない人、そんなモラルなき世界に混じって遭う大人達の仕事大変だよトークや付き合ってる人との悩み、性癖等の本音トーク、レアアイテムの相場を読んで金儲けを企むやつの考え方とかは、現実世界での知り合いでは話せないだろうヤバさと刺激があった。

俺はゲーム内で地位を固めてからは女性プレイヤーに執心していた。アバターに自己投影が進む過ぎて相手もアバターのように可愛い人に違いないといつも思っていた。純粋にありがとうと言われるだけでトキメイてしまっていた。いつ思い出しても狂っていたとしか思えない。彼女達と仲良くなり繰り広げたチャット内容は惨事としか言いようがない。

ある日チャットだけでは空き足らずついにメールアドレスを交換しようと思い立った。勿論ゲーム内でアドレス内の交換など行ったら、即アカウント停止の憂き目に遭う。そういう人たちを俺は何人も見送ってきたはずだ。

積み上げてきた栄華を失う訳にはいかない。俺は慎重に思考を重ねた。独自の暗号は上手くいかなかった。文字間に記号を入れて送信するのも危険に思えた。手紙は家族にバレるリスクがある。俺は最終的に日にちを分けて何文字かずつ送るという作戦を実行した。

果たして僕らはメールアドレスの交換に成功した。交換中の数日は非常にドキドキしたが途中から俺は気付いていた。メールアドレスから漂う狂人の香りに。そして知る。世界の現実と世の儚さを。

自分の名前にちゃんをつける彼女は俺の二倍ほど歳を重ねていた。

とても懲りた。
だがすぐ鋭意は宿った。

そう、男とはロマンを追求する戦士なのだ。DNAに刻まれた狩猟本能は一度の失敗で懲りることを許さなかった。これは序章に過ぎないのだ。そんなありきたりな口上で再度奮起する事になった。

その中でネカマと呼ばれるネット内のおかまや現実世界で彼氏がいる女性。そういう満たされない人達がとても多い事を知った。彼ら彼女らとの触れ合いは、また自分も満たされていないものの一人である事を思い出させた。

 

俺のキャラクターはモテる。
これらの出来事を乗り越えた俺はある程度確信を得た。人生を振り返るとどのような世界にあっても力あるものは例外なくちやほやされると気付いた。

仮初めではあるがここでの生活は充実していた。都合のいい事にだけ目を向けていれば良かった。やればやるだけ報われる。そんな単純なシステムで現実世界も構築されていて欲しかった。

虚しさは一向に薄まる気配はない。複雑で不公平な現実世界の事を一瞬たりとも考えたくないと心から思っていた。逃避欲求が強まれば強まるだけ、熱狂的にのめり込んでいった。

そんな魔法の世界で生きる時間はあっという間に過ぎていくのである。

【第六話に続く】

あとがき

お疲れ様でした。

今回の引きこもり編いかがでした?

人生の中で引きこもり期は最高に楽しかった期間の一つです。嫌な事は全部忘れて楽しい事だけで生きているから当然の事なんですけどね。

書いていると思想の骨子の原体験とかが明瞭に思い出せて感慨深いです。思考の変遷を辿ることは自己分析に役立つので皆さんも気が向いたらブログでもメモでもいいので書き出してみるといいかもしれません。

また、気付かれた方いるかもしれませんが、一人称が変わってます。私は高校生から『俺』を使うようになったんですね。大変強がってます。ですがこの頃まで父を『パパ』と呼んでいてそれを変える時に一緒に変えたというのが正しい流れだったと思います。笑

今回のテーマは
「不登校にどう対応するか」です。

独特な悩みを持った人にどう対応するかに近いですね。
私自身の場合は誰に相談していいのかわからないことが主体性を奪い、結局本当の意味で理解してくれる人がいないという諦めが人からの援助をもらいづらくさせてしまったなと思ってます。

不登校の場合は家庭での解決が求められると思うので、家族も相談相手を見いだせず上手く相談できなかったりするのかもしれません。引きこもってしまった原因を聞かせてもらえるようにまずは辛抱強く見守ったり、話しかけ続けることがいいのかもしれないとは思うのですが。

のちの鬱の対応策にも繋がりますが、どう根本原因を取り除くかが肝になってくると思ってます。環境を変えられないなら、新たな環境に移動するのも手ですし、考え方を変える事によって、違った反応を引き出せるようにするのも良いですね。

精神的な問題は非常に対応が難しく、解決には多くのリソースを求める事が多いので家族だけでなく、社会全体が少しずつ手助けをしてくれるようになったらより治療に専念できるようになって良いのかもなと思います。

Mex(https://me-x.jp/)
という10代向けの相談窓口のサービスが立ち上がったようなので、今後もこのようなサービスが増えていったら嬉しいですね。

誰かの一助になれば幸いです
2017/8/3 ロマンチストサラリーマン

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です